このほど、中米と米国南部に出張した。目的はメキシコでEPA(経済連携協定)の会議、パナマで運河の第二次計画などについて大統領他との会談、そして米南部ニューオリンズでハリケーン被害地視察とその後の協力体制の提案、最後にテネシー州ナッシュビルで日系企業関係者との会合などである。 いずれも、当方の提案について先方から高い評価を得て充実した出張だった。詳細は報告書等に明らかであるが、この出張、7日間という私としては異例に長い行程だった。だいたい一つか二つの会議目的で最小限の日数で帰国するのが常なので、毎日飛行機で都市間を移動し7日間も過ごすというのに、準備が追いつかなかった。 果たして、あと2日を残してニューオリンズに辿り着いた時にはワイシャツがどうしても足りない。各地とも会議が終わればすぐ次の地、ここでもホテルには1泊しかしないし、だいたい到着が遅くて出発が早いからホテルのランドリーが受け付けてくれない。 東京の「2時間仕上げ」などというものを知ってしまっている私は、秘書官とともにホテルのスタッフに頼み込んでみることにした。秘書官の流暢な英語による懸命な説得にもかかわらず、人の良さそうなおばちゃんスタッフは「到底無理だ」と首を振るばかり。 明朝からの会談で着る物がない・・・と考えあぐねた末、「米国はチップが必要だ」と思いつき、2ドルを渡して「後生だから頼む」と言ってみたところ、「・・・OK・・・」とそのおばちゃんスタッフはワイシャツを持って部屋を出て行った。
夜の公務が終わってホテルに戻ると私のワイシャツは"丁寧に(!)"たたんでベッドの上にあった。「やっぱり米国はチップさ!」と思ったのもつかの間、よく見るとしわしわのままだ。しかし、きれいに洗われた形跡はあり、石鹸の香もする。 思うにあのおばちゃん、2ドルでできる洗濯を一生懸命してくれたようだ。自分でやったのか、コインランドリーに行ったのかは知らないが、ホテルの仕事でないのに 、なんとかしてやろうと思ったのだろうか。 普通なら腹がたつところかも知れないが、おばちゃんが一人石鹸で洗っている姿を想像すると、妙にうれしいじゃないかと思ってしまった。
それくらい、ハリケーンの傷跡はまだ生々しかったとも言える。
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